ぼうけんのしょ:ただのおたくのようだ

BLゲームや乙女ゲームの感想。R18もあり

神学校・セシル感想

 物静かで優しいマイケルの親友、セシル。レオニードルートが互いの腹を探り合いながらも少しずつ距離が縮まっていった印象だったのに対し、セシルは親友というポジションだけあって想いを伝え合うのはわりと早かった気がします。しかしそれはセシルのすべてを知ることとイコールではなく、むしろどんどん彼の抱える謎が増えていきます。以下感想ですが、例によってどっちが攻めか受けかについてはあまり詳しく書いてないのでリバNGの方でも大丈夫かと思います!

  

 手首にあるやけどの痕、「昔、自由に出入りできないところにいた」というセシルの言葉、誰も中身を見たことがないというロケットペンダント。私は一瞬娼館のようなところに売り飛ばされて奴隷に近い扱いを受けていたんだろうかと想像しかけたんですがセシルにはお父さんがいたことを思い出し、その線は消えたと思いつつも全然予想がつきませんでした。ラストで明かされた真実には本当に震えた。ああそうだったのか…だから…!とすべてが腑に落ちた時の不思議な感覚に包まれました。それで神学校の舞台が第二次世界大戦後のバリバリ20世紀だということも知りました。わりと最近じゃないか!誰だ19世紀頃ですかね?とか言ってたのは!(※レオニードの記事の私です)

 

 母の命乞いによって死者の列から抜け出すことのできたセシルはずっと「自分は生きててはいけない存在なんだ」という思いを抱えていた。自分はとても罪深い存在だから、せめて神様のそばで一生祈って生きようと考えて神学校に入ったという経緯がハッピーエンドが確定したルートでのみ明らかになります。バッドエンドに向かう分岐ではセシルの過去すべてを知ることはできません。それがセシルの過去の壮絶さと悲惨さを表しているような気がしてブルッときました。セシルを愛し彼と生きていくことを決めた者でなければ彼の秘密を知ることはできないということなので。本当にそれだけの重みを感じる過去です。微妙にぼかしているのでもしここを読んでいる方で未プレイであるならば是非ご自分の目で確かめて震えてほしい……!

 

 セシルルートの何が凄いって、最初からセシルはマイケルのことが好きで、それでいてその想いが一途を通り越してあまりにも敬虔なところです。恋心に敬虔という表現を使うのはおかしいのかもしれませんが、セシルがマイケルを想うさまは信心深い信徒が神に祈りを捧げる姿そのものです。

 

 セシルがマイケルに「本当は一生伝えるつもりはなかったんだけど」と言うシーンがありますが、複雑な経緯がもしなくて、その結果セシルが行動に出ることもなければ本当に心の中で想い続けるだけで彼は一生を過ごせたと思います。セシルにとって初めて会った時からマイケルは希望の象徴で、そして「僕は君を尊敬する!」という真っ直ぐな言葉でセシルに誇りや尊厳を思い出させてくれた人だから、「好きになってもらいたい」「せめて気持ちだけでも伝えたい」なんて思うべくもなく、神の子羊が自然に膝を折って指を組み聖書の言葉を諳んじるように、新しい薪などくべずとも命が尽きるまで密かに灯り続ける恋心で暖を取るように生涯を終えるはずだった。

 

 しかしセシルがその道を歩まなかった理由の一つとして、校長のおぞましい行為が影響していることは確かです。校長に性的に穢される中でせめて空想の中では救われようと「これはマイケルにされているんだ」と考えて苦しみから逃れようとしたセシルはこれっぽっちも悪くない。そしてセシルはマイケルに触れたくなった。近くで想い続けるだけではもう我慢できなくなってしまった。セシルは「僕は君も僕と同じところに堕とそうとしたんだ」と罪を告白するように言いましたが、行為に及んだことはともかく(それも拒絶しようと思えばできるのがセシルの優しい性格を思わせてつらい)そう思ってしまったことを責めることのできる人間がいるんだろうか。セシルはマイケルを自分と同じような地獄――意に沿わない行為を強要し屈辱と罪悪感に苦しませたかったのではないとそれだけは断言できます。理不尽な形で肉体を穢されたセシルはマイケルの清らかな体に救いを求めて縋ったのだと私は考えています。今際の際に神に縋るのと同じように。

 

 あの時のセシルはもうなりふり構っていられないところまで追い詰められていた。その証拠と言っていいのかわかりませんが、セシルに求められた時に彼を拒絶するとセシルは自殺します。思い切りバッドエンドです。でもセシルは恨み言一つ言わずに死んでしまうので、すべてを知っているオーガスト神父の言葉がプレイヤーにのしかかるんですよね。君はそれでいいんだ?セシルも可哀想にねぇ。

 

 セシルルート、本当にバッドエンドが凄い。レオニードの方で「このバッドエンドが凄い!」という記事を書いたけれどさらに上をいくのではないかというようなバリエーションの多さ。マイケルが悪魔の群れに強姦されて死ぬエンド、心中エンド、レオニードルートと同じように『夢』でマイケルがセシルを刺し殺すエンド。これでもかこれでもかと違う角度から攻めてくる欝エンディングの大群。一体どれだけ引き出しがあるんだ……。あと3人も攻略キャラ残ってるんだぞ!ピルスラッシュが怖い。勿論いい意味で。

 

 幸せになれなかったルートのつらさ悲しさの分だけハッピーエンドは幸せがあふれてるので「えっそんなに欝ならイヤだ!」と思わずにやってほしい……!私は思わず泣いてしまいました。あまりに幸せで。セシルよかったね、生きててよかったねと心の中で繰り返さずにはいられない。贖罪の一生を歩むことを己に決めていたセシルが愛する人と共に歩む道を選べたことが本当に嬉しかった。

 

 たとえ神が許さなかったとしても、僕は僕を許そう。セシルがそう思うことができるまでどれだけ長かったんだろうと彼の苦しい半生を思ってつらくなったり幸せになれたことを喜んだり忙しい。忙しいけど見てる方も幸せ。マイケル×セシルもセシル×マイケルもどっちも本当に最高でした……。同い年の親友同士という関係から始まっただけあってやりとりが初々しくて何もかも可愛い。本当は同性同士愛し合うことへの罪悪感や周囲に怯える様子なども丁寧に描かれていてそこについても書きたかったのですがハッピーエンドを見たら頭までハッピーになってしまってもう何も考察っぽいこと言えない。セシルとマイケルが幸せになれて本当によかった……。

 

 次はニールを攻略します!彼も謎なところが多いのですごく楽しみです。それではここまで読んでくださってありがとうございました~!