ぼうけんのしょ:ただのおたくのようだ

BLゲームや乙女ゲームの感想。R18もあり

神学校・隠しキャラ感想【後編】

 マイケル攻めとマイケル受け、どちらの差分も回収したので後編を書きます。

 前編から読んでいただけると嬉しいです~

 

 

 オーガスト神父のルートでは受けと攻めどちらを選ぶかでBADエンドが分岐するのですが、それがまた凄かった……。

 これまで三人攻略してきて色んなエンディングを迎えましたが、これ以上あるのか!!と思うほどにバリエーションが豊富。まさかアベルともセックスする展開になるとは思いませんでした。

 

 マイケルは礼拝堂でのオーガスト神父との情事を扉の隙間からアベルに目撃され、彼に言いふらされるのではという不安に日夜怯えることになります。オーガスト神父は「彼のことは私が何とか説得してみるから」とマイケルを安心させようとしますが、アベルが結社のメンバーアスタロトであることを知っているマイケルが気が気ではありません。彼は見た目通りの純真で可愛らしい少年ではない。上級生に可愛がられる学園のアイドルの顔は単なる仮面で、その心には悪魔が潜んでいる。マイケルは恐怖のあまり、その日から悪夢に苦しむようになりました。

 マイケルが危惧していたようなことは起こらなかったものの、ある日廊下でアベルに呼び止められ、彼から衝撃的なことを聞かされます。

 

ルシフェルはあんたに飽きてたんだよ」

「僕はあんたが何をしたか全部知ってる。ルシフェルに教えてもらったからね」

「もっと歯ごたえがあるかと思ってたのに、あっさり落ちてつまんなかったってさ」 

 

 マイケルは激しい怒りを抱きますが、震える拳を何とか押し留めます。自分を騙したアベルオーガスト神父を憎み、何よりも二人の手のひらで転がされていた愚かな自分を憎んだマイケルは、その夜やってきたオーガスト神父に「アベルは私のペットであってそれ以上にはならない。本当の恋人は君だけさ」と愛を囁かれても嘘だと突っぱねます。そうして怒りに震えるマイケルを見て、オーガスト神父は心底嬉しそうに笑いました。

 

「やっぱり君は、真っ直ぐ前を見ててくれなきゃ」

 

 これまでも何度かそう感じる場面がありましたが、やはりオーガスト神父は自分の誘惑に負け、あっさり手中に落ちてくるようなマイケルはいらないのでしょう。自分に陥落した瞬間、マイケルはオーガスト神父の望むミカエルではなくなる。自分を罰し、死を与えてくれる大天使ではなくなるから。

 オーガスト神父はこの時、不思議なことを言います。少し前のオーガスト神父に与えられる快楽に溺れかけていたマイケルではなく、自分を憎み怒りを剥き出しにする彼を見て懐かしそうな目をして言うのです。初めて会った時のような澄んだ目だ、と。そしてマイケルに、私たちは十年以上前に会ったことがあると言うのです。

 しかし、ほんの昨日まで彼に騙されていたマイケルはオーガスト神父の言うことを信じようとしません。その時寮の部屋からセシルが現れ、マイケルに中に入るよう無言で促します。オーガスト神父の言うことになど耳を傾けてはいけないというように。マイケルは親友に導かれ、オーガスト神父を置いて部屋に戻りました。マイケルを呼び止めようとする必死な声も、どうせいつもの声色だ、悪魔の誘いなんだと振り切って。

 

 翌日、気が晴れず湖のほとりでひとり過ごしていたマイケルは会いたくない人物に遭遇します。アベルです。彼は数日前のようにマイケルを嘲笑い詰り始めます。激昂したマイケルは今度こそアベルに殴りかかり、小さく華奢なアベルは呆気なく気絶しその場に倒れ伏しました。

 我に返ったマイケルは激しい後悔を抱きながら、アベルを養護室へと運びます。そして自分のしたことを神父に告白し、校長から罰を受けることになりました。そのうちのひとつとして反省室に入れられたマイケルの元に、やはり深夜、オーガスト神父がやってきました。

 そこでオーガスト神父がマイケルに語り始めた内容は、とても彼の精神が耐えきれるものではありませんでした。自分はマイケルの父、ダニエルにも預言を与えた。マイケルと同じ「愛する人を殺す」という預言を。ダニエルはあのゲームの中で「自分の息子は監督生になる」とも預言していた。ダニエルの預言――彼の望みは次々に叶っていき、最後はルシフェルの与えた預言だけとなった。だからいつ自分が愛する家族を手に掛けるのかと怯えていたのに、とうとう自殺だけはできず、結局妻と幼い娘を殺してしまった。

 

「君の家族を殺したのは君の努力と、主の教えだよ――」

 

 そう言って哄笑するオーガスト神父。父ダニエルは神から与えられた命を自ら捨てることはできないからと自殺することができなかった。その前に、マイケルが父の期待に応えようと努力して監督生になったから、ダニエルの望みはすべて叶ってしまった。混乱し激しく動揺するマイケルをオーガスト神父は無理やり犯しました。その時、マイケルは確かに何かの気配を感じます。生臭い獣のような息遣い、虫のように這い回り、身体を舐め尽くす無数の舌。オーガスト神父が地獄から連れてきた異形の者たちによってたかって、今自分はすべてを穢されている――。

 

 マイケルが意識を取り戻したのは清潔で温かいベッドの上。翌朝見回りに来たラザラス神父に発見されたマイケルはすぐに保護されましたが、あまりにもショックが大きすぎたためしばらくは茫然自失の状態であり、記憶さえあやふやでした。マイケルを心配し守ろうとする幾人もの人々の目を掻い潜り、再びオーガスト神父がやってくるまでは。

 しかしオーガスト神父が蛮行に及ぼうとした時、ニールとレオニードが駆けつけそれは叶いませんでした。マイケルは病気療養のためという名目で、エイハブおじさんの家に行くことになりました。神学校を去ることになったマイケルは最後にと学内を歩き回ります。そこでガビィと鉢合わせ、ずっと疑問に思っていたことを聞きます。自分は昔オーガスト神父に会ったことがあるのかと。双子の弟は事もなげに「あるよ」と明るく返すと、自分の額をマイケルのそれにそっと触れさせました。その時マイケルの脳内に浮かんだイメージこそが、オーガスト神父の言っていた「十年前の記憶」だったのです。

 

 どういう用向きだったのか、ダニエルの牧師館にやってきて、庭で遊んでいた幼いマイケルに自分は悪魔なんだよ、と言うオーガスト神父。「うそだぁ、悪魔が牧師さまの格好をしているわけないよ」と屈託なく返すマイケル。そのあどけない笑顔を見て、オーガスト神父は急に両手で顔を覆って言いました。

 

「お願いだよ、マイケル。私がこれ以上悪い人間になったら、君が私を倒してくれないかい」

 

 苦しそうな嗚咽。小さな子供にかける言葉とは思えない、切実な望み。これはオーガスト神父の嘘なんかじゃなくて、ガビィが見せてくれた本当にあったこと。気が付くとガビィはその場から消えており、マイケルはたった今見せられた記憶を想って立ち尽くすのでした。

 

 オーガスト神父のルートは本当に書きたいことが沢山あり、そのままだと膨大な量になってしまう(もうなっていますが…)ので、できるだけ大切なところを掻い摘んでいきたいと思います。オーガスト神父は悪魔の力がなせる技なのか、マイケルが学校を去る前夜、眠っている彼を見張りの者たちにばれることなく廃教会へ運びます。

 ここに来てオーガスト神父が十年以上ずっとマイケルとの再会を待ち望んでいたことがわかります。彼は若い頃、こんな悪い人間ではなかった。しかし牧師として救いを求める兵士たち――オーガスト神父は神に縋る者に敵も味方もないと信じていました――のために従軍した際、自分の中に悪魔の種子があることを知った。行動を共にしていた親しい兵士たちを殺され、自分も頭に銃弾を受け倒れたオーガスト神父は、赤く染まった視界の中で折れかけた十字架を見ます。十字の縦、長い方が爆風で折れてしまって、ぎざぎざと鋭く獣の歯のようになった十字架。それを掴むやいなやオーガスト神父はゆらりと立ち上がり、仲間を殺し自分を撃った敵兵に襲いかかります。オーガスト神父をとうに死んだものと思っていた兵士は完全に虚をつかれ、抵抗らしい抵抗もできないまま何度も十字架を振り下ろされ絶命しました。

 オーガスト神父は「他人を痛めつけることを心底快楽だと感じた」と言い、だからこそ元々自分の中に邪悪な素養があったのだと語りますが、果たして本当にそうでしょうか?私には「戦争なのだから、皆が暴力の狂気に取り憑かれるのは仕方のないこと」「誰でもあの過酷な状況におかれたらこうなる」と己のしたことを正当化せずに悪だと断じたこと自体が、オーガスト神父がかつて善良な人間であったことの証のように思えました。

 しかしその後のオーガスト神父は不老がもたらす孤独に苦しめられる中、自ら積極的に人々に苦しみの種を植え付ける災厄となっていきます。退屈しのぎに、暇つぶしに大勢の人々を地獄に突き落としていく中で、確かにその瞬間はオーガスト神父は悪魔になったのかもしれません。

 

 最後に、オーガスト神父はマイケルに頼みます。自分と一緒に死んでほしい。ひとりで逝くのはあまりに寂しすぎるからせめて道連れが欲しいんだという彼にマイケルは頷きます。心の中で「これは命を捨てるに値する行為なのか」と自問自答しながらも、マイケルはオーガスト神父を受け入れました。

 この十年間、オーガスト神父の希望だったマイケル。医者も匙を投げ、人々が奇異の目を向ける中で「おじさんが悪魔になったらぼくがやっつけてあげるよ」と、幼いマイケルだけが自分に確かな約束をしてくれたから、と静かに話すオーガスト神父とともに、マイケルは毒を煽りました。

 

 ふと目を開くと、そこは荒野でした。見渡す限り草木の一本も生えていない、乾ききった大地のひび割れた荒野。地平線には闇が迫り、そこでうっすら赤く揺らめいているのは炎だと、マイケルは誰に教わるでもなく分かっていました。そこでマイケルは自分の髪が体を覆うほどに伸び、さらに背中には天使の羽根まで携えていることに気づきます。そして片手には炎の剣。マイケルはいつの間にか大天使ミカエルの姿になっていました。目の前には切り立った崖があり、底には蠢く無数の亡者の群れ。崖のふちには、オーガスト神父が今にも落ちそうに両手で掴まっています。彼はマイケルに、ミカエルに懇願します。もう手を離すことも這い上がることもできない。だからどうかその剣で自分の腕を切り落としてくれと、マイケルに最後の願いを伝えました。

 ここでマイケルが剣を振り下ろせば容易くオーガスト神父は崖の底に吸い込まれていき、大勢の亡者とともに最後の審判の日まで苦しむのでしょう。それがオーガスト神父が本当に望んでいることなのか。確かに死ぬことで苦しみから解放されるのだとしたらそうなのかもしれませんが、マイケルは剣を振り下ろすことなく言いました。

 

「僕は天使じゃない。僕は、貴方と共に罪を背負うためにここに来たんだ」

 

 その瞬間、二人の周囲を眩しい光が包み込み、その中でマイケルは幼い頃の記憶の続きを見ました。地面に膝をつき嗚咽するオーガスト神父に、

 

「大人になったら牧師さんになって、おじさんから悪魔を引き離してやっつけてあげる!」

 

 と約束する自分。その光景を見てマイケルは苦笑します。なんだ、あなたを殺してあげるなんて約束してないじゃないか。最後まで嘘つきだったな、と。

 

 その後、事態は急展開を迎えます。再びマイケルが目を覚ましたのは清潔な白い病室でした。見舞いにやってきたラザラス神父に、オーガスト神父が死んだこと、そして自分と彼の毒にはかなり量に違いがあったことを聞かされたマイケルは牧師になることを誓います。マイケルの分だけ毒の量を加減したオーガスト神父にもきっと神の光が眠っていたのだと信じ、父を含めた尊敬するあらゆる人々のような牧師になろうと。

 

 それから何年も経った頃。大人になったマイケルは牧師を手伝う執事という立場になり、教会で働いていました。当時寮で同室だった皆との付き合いは続いているけれど、あの学校で起きたことはもう遠い昔のように思える。そんなことを考えているマイケルの元へ、突然ラザラス神父が尋ねてきます。不思議そうな顔をするマイケルに、ラザラス神父は「君に謝らなければいけないことがあります」と告げてから言いました。

 実はオーガスト神父は生きていたということ。しかし奇跡的に一命をとりとめたけれども心は帰ってこず、自分の意志では動くことすらできない状態であったこと。皆で相談してマイケルには彼が死んだことにしようと決めたこと。そして、今まさにオーガスト神父の命の炎が消えかけていること。

 マイケルは驚愕しながらも、その足でオーガスト神父がずっと入院しているという病院へ向かいます。そこで久しぶりに見たオーガスト神父はひどく痩せて骨と皮のようになっていました。それ以外の見た目は変わっていないものの、内臓の機能が衰えておりもって一ヶ月。早ければ数日中に亡くなるとラザラス神父に伝えられていたマイケルは、ずっと死んだのだと思っていたオーガスト神父と再び向き合います。

 マイケルは彼を見て、まだ自分の中に家族を殺された恨みも与えられた恥辱への怒りも残っていたのだと気付きます。とうの昔に消えたと思っていた薄暗い感情はずっとマイケル自身も知らないまま心の底で燻っていた。それが今、すべての元凶であるオーガスト神父を前にして眠りから覚めたように甦ったのでしょう。

 弱々しく痩せ細ったオーガスト神父を見て、マイケルは「今の貴方なら簡単に殺せそうだ」と声に出して言います。しかしマイケルはそうはせず、オーガスト神父にこう言いました。

 

「……僕は貴方を許さない。――でも、僕は貴方を許す」

 

 最後に彼の安息を祈る言葉を呟いてから、マイケルが病室を去る間際、扉の隙間からオーガスト神父の頬にひとしずくの涙が伝うのが見えたと、そこでオーガスト神父とマイケルの物語は幕を閉じます。

 

 これ、GOODエンドなんですよね……。エンディングが流れ始めてしばらく経っても呆然としていました。そして長い息を吐きました。「こう来るか~~~……!」と思いました。

 GOODエンド、またはハッピーエンドと言えば恋し合う二人が結ばれて幸せに暮らしましたというのが王道です。しかしオーガスト神父は、そんな結末を迎えるにはあまりにも罪を犯しすぎていたし、彼の望むものはもう「死」という終わりだけであり、愛する人との幸せな生活などではなかった。それだけを願ってずっとマイケルを待っていた人でした。

 マイケルはずっと騙されていた偽りの関係ではあったけれど、確かに恋した人にそれを与えようと一緒に毒を煽り、しかし地獄の淵で彼を罰することはしなかった。そして最後に彼を許さないけれど許すと伝え、「もうすぐだ、オーガスト」ともうすぐそばまで来ている彼の永遠の安息を祈って終わる、という……。凄まじいです。一人のキャラクターをここまで描き切ったという事実が本当にすごい。ご都合主義のハッピーエンドなどどこにもなく、辛辣なほど真摯な終わり方に胸を打たれました。

 最後のマイケルの台詞についてですが、私は「僕は貴方のしたことを許さない。でも、貴方自身は許す」ということだと考えています。「罪を憎んで人を憎まず」は言うは易し行うは難しの筆頭だと思いますが、マイケルはそれができたのだと信じています。

 家族を殺されたことや、恥辱を与えられたことは許せない。それは当然です。何年経とうが忘れられるものではないし、死んだ人々は帰ってこない。けれどマイケルはオーガスト神父が抱え続けてきた孤独や苦しみを想い、罪も共に背負おうと決めたからこそ最後には彼自身と彼の罪を切り離し、オーガスト神父のことを「許した」のだと思います。

 

 次はついに最後のひとり、ガビィです。

 今度もまた長々と書いてしまう気がします……楽しみでもあり、恐くもあり、またこの素晴らしい作品を終わらせてしまうのがとても勿体ないとも思います。また近々感想をアップできれば!それではこのあたりで失礼します。