ぼうけんのしょ:ただのおたくのようだ

BLゲームや乙女ゲームの感想。R18もあり

神学校・レオニード感想

 名作BLゲームと名高い神学校をプレイしました。まずはレオニードから攻略。この記事を書いている段階では彼しか攻略していないので、まだ全貌が見えていない分トンチンカンなことを言ってる可能性もありますが大目に見てくださると嬉しい。

 どちらかのカップリングに焦点を当てて言及しているわけではないので、マイケル×レオニード派の人でもレオニード×マイケル派の人でも読める内容になってるはず。ただし死ぬほど長い。長いです。

  開幕から懺悔させてほしいんですが、このゲームをプレイする前は時代設定が19世紀くらいに思える(不勉強でわからん)(すみません)ので今よりもずっと同性愛に対する偏見が強かった&そもそも舞台が同性愛を禁忌とする宗教の戒律が支配する神学校である、ということで、

 「きっとこのゲームは男性同士で愛し合うことがタブーとされている世界を二人がどう乗り越えるかということと、家族を殺され神を信じなくなったマイケルがそれでも自分に染み付いたキリスト教的な価値観とレオニードへの感情にどう折り合いをつけるかということが主題なのだろう」

という安易な先入観を持っていました。

 すみません。甘かった。そんな簡単なものではなかった。かと言ってわざと難解にさせているわけでもない(なんなんだ)。同性愛が禁忌とされている時代・環境設定だということは確かにこの物語を構成する上で大切な要素ではあるけれど、決してそれが神学校という作品のメインテーマとなり得るよう全編にわたって主張してくるわけではなかった。

 「この作品は●●シチュが基本(神学校でいうと禁忌の恋愛をする背徳感とか)なのでそれに萌えてね!」なんて大雑把な作られ方は一切されていない。凄い。簡単そうでいてこれはかなり凄いことだと思います。

 

 マイケルは神への信仰を捨てたとしながらもずっと悩み迷い苦しみ続けます。でもそれは同性を愛することに関してだけではなく、嘘をつくことや自分の目的のために誰かを騙して利用することなど、これまで聖書の教えに従って清く正しく生きてきたからこそ感じる後ろめたさと罪悪感もある。

  つまり何が言いたいんだって感じですが、神を捨てたけど同性を愛することにはやっぱり抵抗があって苦しみながらも進んでいく少年のお話だよ、っていう単純なストーリーではないところがまず、すごく好きになりました。

 

 マイケルが自分の家族の死と関係があるかもしれない『赤蛇の土』という悪魔崇拝の秘密結社に潜り込んで真相を探っていくさまはサスペンス映画やミステリー小説のようなスリルと面白さがあります。一瞬いい意味でBLゲームだということを忘れる。

  「事件に隠された真実を追求していく」というシナリオは、リアルさがないと全然楽しめないものです。どういう筋道で主人公が何を根拠として行動しているのか、それがあやふやだと物語に入り込めないので。なので、マイケルが秘密結社のリーダーであるルシフェルの正体を明かそうとする手段は極めて現実的です。ガビィに相談し知恵を巡らせながら暗号のようなメッセージを読み解き黒ミサに出席し、隙をついて白墨で法衣に印をつけ、翌朝それが誰のものかを確かめることでメンバーの正体を知っていく流れなどが顕著だと思います。しかし、パズルのピースを少しずつ嵌めていくような確かな手応えが次第に崩れていくのは、悪魔の存在をマイケルやガビィ、そしてプレイヤー自身までもが感じ始めるからです。

 

 突然不気味な現象が起こりまくるのではなく、じわじわと血の染みが広がるようにいつの間にか不可解な現象が増えていき、気がついた時には既にそれに取り囲まれている。預言ゲームに参加した者にしか聞こえない鼠のような「何か」の足音。人の心を見透かすかのようなルシフェルの言動。悪魔の力を借りたとしか思えない、ありえないはずの出来事の数々。

 「この学校には悪魔が棲んでいる」そう感じた瞬間の背筋の寒さは本当にホラー映画を観ているかの如し。さっきからサスペンス、ミステリー、ホラーと恋愛要素はどこにあるんだということしか書いてませんが、BLゲームのメインじゃないはずのシナリオ部分がめちゃくちゃ面白いので自分でも引くほどの長文を書かざるをえない。許してほしい。

 

 そして最初は悪ふざけ、子供じみた反抗心の表れにしか見えなかった彼らの儀式が、まだ幼い青少年たちのちっぽけかもしれない、でも本人にとっては吐露すべきところが見つからず胸の奥でわだかまって本人を苦しめていた感情の唯一の吐き出し場所になっていると知った時の切なさ。一番になってみんなに認められたいデニス、父や兄を見返して本当に好きなことがしたいジャック、それと彼だけはちっぽけどころではないとんでもない歪みを抱えていましたが、案外口が悪いところもあるけど善良で心優しい少年であるマイケルをして毒の花のようだと言わしめたアベルの、暗く滾るルシフェル以外のすべてに向けられた憎しみ。

  次第に明らかにされていくマイケルとガビィの父ダニエルの孤独な少年時代。「僕を拒む世界が見えます」というダニエルと若かりしラザラス神父の静かな言葉のやりとりは、現実の不幸をどうしようもできないダニエル少年の悲しみと苦しみを感じてつらいものがありますが、とても心に残る場面でした。

 

 ここまではおそらく共通ルートだと思うので、今からタイトルに嘘偽り無くちゃんとレオニードについて書きたいと思います。やっとか!!本当に長いよ。蛇足が。

 

 すべてについて書こうとするとものすごい長文になってしまうので(もうなってるけど)、私が選ぶここがいいよマイケルとレオニードなシーンをいくつか簡潔に。

 

・レオニードがマイケルにとって恐怖の象徴である夕陽から彼を守った

 ここはレオニードルートでも指折りの名シーンだと思っています。夕陽は家族が殺された時の炎を思い出させるからマイケルはフラッシュバックに怯えていた。レオニードは優しくマイケルのまぶたを閉じさせて夕陽を見ないようにさせるんですが、ここ、マイケルは目を塞がれているので「何となく声の調子で」しかレオニードが微笑んでいることが分からない(直接は見れてない)んですけど、勿論プレイヤーにはレオニードの優しげな微笑みが見えてるわけです。ハァ。神演出だ……溜め息をこぼすしかできない腐女子になるしかない大好きなシーンです。

 

・デニスに殺されそうになって弱っていたレオニードの心を今度はマイケルが救った

 義父に邪魔にされ世俗から離すために神学校に入学させられたレオニードは、人を信じることが得意ではないだけでなく、人から疎まれることが決して少なくなかった。私は最初デニスなんてレオニードは眼中にないと思っていたし、本人も彼にあまり関心がなかったことを後に認めていますが、人から「いなくなってしまえばいい」と思われるのはとても傷つくことです。ただでさえレオニードは実家で「前の夫との子ども」という微妙な立場であり、さらに義父が資産家であるがゆえに誰が家を継ぐのかというような話題でも何かと厄介者として扱われていたはずです。

 でもレオニードは見た目通り心まで氷のように冷たいわけではない。人を信じることが苦手で、誰かに優しくするのもそこまで得意ではなく、自分だけの力で這い上がろうと努力して手に入れた総監督生の立場も人から遠巻きにされるものだったから、彼はいつも孤独だった。実家でも学校でもです。それでも誠実であろうとすることはやめなかった。悪いことをしたと思えば下級生相手にもきちんと謝る。不安定になって心細そうにしているマイケルに、祖父から伝えられたロシアの紅茶を飲ませてあげる。わかりにくいけど優しい人なのだとマイケルは気づき、それはかつての婚約者であるアグネスも知っていた。アグネスはそれを知っていてもお金のためにレオニードを捨てたけれど、レオニードは優しさを捨てなかった。裏切りという行為はひどく憎んでいても自分の品位は落とさなかったレオニードが、私は好きです。たとえそれが彼なりの意地でありプライドであったとしても、そういうことができる人は高潔だと思うから。

 話がめちゃくちゃ脱線しているので何とか軌道修正します。最初私はデニスに刺されそうになって傍目にもわかるくらい動揺し弱気になっているレオニードが意外でした。確かに殺意を抱かれるなんてショックだけど、レオニードにとってデニスってどうでもいい人でしょ?と。ここでやっと、私も神学校のモブ生徒たちのようにレオニードを誤解していたんだなぁと気づきました。相手が誰であれ存在を疎まれるのは傷つくよ。いなくなれと願われ、実際に手をくだされそうになったらショックだよ。レオニードが表向きはいくら鉄壁の総監督生であったとしても、その胸の奥には柔らかい人の心がある。そのことをマイケルはよく知っていました。

 弱っていたレオニードのそばにマイケルがいてよかった。レオニードの「私は存在してもいい人間なのだろうか」という弱々しい呟きを、「いいに決まってるだろ」と心から肯定してくれるマイケルがいてくれて本当によかった。マイケルの苦しみをレオニードが和らげたように、レオニードの孤独もマイケルが溶かしたというところが、レオニードルートの本当に最高なところだと思います。

 

・同性愛が禁忌とされる世界で二人が出した結論がとてもシンプルだった

 もうこれは最強の答えだと思います。相手に触れて、触れられて、心が通じてお互い好きだと分かって、そばにいることが嬉しい。それが悪いことだなんてどうしても思えない。それでいいんだよなぁ、と何度も頷いてしまった。

 何も難しい説明はいらなかった。誰に対して長い言い訳を考えなくてもいい。あれこれ頭を悩ませて「自分たちが許されるための」聖書の解釈を探ろうとしなくてもいい。二人が「自分たちは何も悪いことをしていない」とはっきり思うことができれば、それで全部なんだと。卒業したレオニードは法学を学び、何が起こっても信仰心が自分の中に残っていたとわかったマイケルは神学の道に進む。レオニードは今後、同性が愛し合うことが罪とされる世の中を変えていきたいと考えており、それは茨の道だということがもうきっと彼にはわかっている。でも道半ばでつらくなった時に、レオニードやマイケルの顔を再び上に向かせてくれるのは他でもない、あの時感じた嬉しさや心地よさという、二人であったからこそ得ることのできた確かな幸せなんだと思います。

 

 最高だったなぁ、レオニードルート……。今はひたすら余韻に浸ってます。そういえばセックスシーンについては書きませんでしたが、あそこに関してはもう私なんかがぐだぐだと説明するのも美味しい料理に長ったらしい名前をつけるみたいで勿体無いので是非ご自分の目で見てほしい。レオマイかマイレオか、リバOKな方は両方選んでたっぷり堪能してほしい。バッドエンドも秀逸なものばかりだったので、それも別の記事で番外編のように書ければいいな~と思います。ここまで読んでくださってありがとうございました!